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(裏)個別支援計画書より

障害福祉サービス事業所では、”より良い”結果に向けた”計画”を作ることが、制度上義務付けられています。それが「個別支援計画書」。福祉の言葉で組み立てられることが常であるこの書類を、スタッフ曽布川さんは自らの言語で再構築し、パソコンの片隅に保存していました。「(裏)個別支援計画書」と名付けられたそれらからは、利用者さんの姿が、なにか小説を読むように浮かび上がってくるようです。今回は大石祐司さんの(裏)個別支援計画書を、コラムとして公開。曽布川さんのまなざしを、とっくりとお楽しみください。

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(裏)個別支援計画書より――大石祐司さんの場合

生活全般の質を向上させるための課題・提案
「線を描く」

大石祐司さんのルーティン――線を描くということ、描かれたものの行き先をその先がないような場所(ゴミ捨て場、コピー機、シュレッダーなど)に確実に送り届けること――を尊重するということは、そのための環境を完璧に整えることだろうか。それならば、線を引くためのペンと紙を常にふんだんに用意し、そのための専用の机をしつらえ、その行き先を遮るようなものが何一つないような通路を整えればよい。しかし、わたしたちがそうしていないのだとしたら、それは、少なからず彼のルーティンを邪魔することが、彼の心、彼の認識能力、彼の判断力、彼の人生の出来事と出会いにおいて多様なものを開くことに繋がる(かもしれない)と感じているからだ。かくして、わたしたちは彼のための紙をあえてあらかじめ用意するようなことをしていないし、ペンを見つけるのにも毎回苦労するような環境に彼を置いているし、彼がコピー機やシュレッダーに向かっていこうとするその道程を邪魔するのである。

生活全般の質を向上させるための課題・提案
「祐司さんとラーメン 」

祐司さんはラーメンが好きだ。しかし、今も彼の家庭に残る彼とラーメンとの悪しき記憶――熱々のラーメンをおしっこで冷まそうとしたこと――から、10年以上もラーメン屋に行けていなかった。そこで2023年には、彼にラーメンを食べてもらおうと3度にわたって彼とラーメン店を訪れた。彼は、スープを一滴も残さずに平らげ、大変満足そうな様子だった。しかし、同じ年の秋、祐司さんは糖尿病を患っていることが発覚してしまう。10年ぶりの出会いを果たしたラーメンとの関係は、再び織姫と彦星のように壁を隔てたものとなることを余儀なくされたのである。そういうわけで、わたしたちとしては祐司さんに心行くまで好きなものを食べてほしいと願いながらも、泣く泣く彼の食事を制限しないわけにはいかないのである。彼の体調に影響のない範囲で、彼が好んで食べられそうなものを提案していくしかない。 しかし、血糖値というものは、食後の運動でその上昇を抑えることができる。なので、祐司さんは自身の体力・気力で運動が出来る限りにおいて、好きなものを食べることが出来るというわけである。したがって、「祐司さんの運動量-摂取糖質量≧0」の不等式が成立し、これを遵守することが必要になる。

生活全般の質を向上させるための課題・提案
「爆音ノイズ 」

祐司さんは爆音ノイズが好きだ。演奏をしていると、アンプやバスドラの方に頭を傾けてその場に寝そべることもしばしばある。彼はそれを聴いて興奮するようなことはない。とても穏やかに爆裂なノイズに耳を傾けている。音が止むと、少し寂し気な目をしてこちらを見つめてくる。

生活全般の質を向上させるための課題・提案
「散歩」

祐司さんは「散歩に行こう」と声をかけると必ずついてきてくれる。断られたことは一度もない。誘うと自分の帽子と上着を手に取り、扉の前で待っている。ヘルパー利用が習慣になって以来、祐司さんの心境にも変化が見られる。お出かけとなると、外食やドライブ、いつもと違ったところへ行くことを期待しているようだ。日中支援の範囲内では、祐司さんの期待に100%応えるのは難しい。ヘルパーと違い、スタッフは祐司さん一人についているわけではないからだ。スタッフは、複数の異なった特性を持つ利用者さんを見るときは、否応なく監視者の目を持たざるを得なくなる。それは、人と人との健全な関係であるとは言い難い。スタッフは、当然いつも祐司さんと二人で出かけられるわけではない。そこには、日中支援の抱える問題がある。スタッフは、祐司さんと歩く一歩一歩が、その解決に向かう一歩なのか、それとも問題を抱えた現状の在り方をより強固なものとして踏み慣らす一歩なのかと、葛藤しなければならない。

生活全般の質を向上させるための課題・提案
「便秘」

祐司さんは夜寝る前に常人の数倍の下剤を飲んでいるらしい。しかし、それでも彼の便秘は治らない。彼がトイレに入っているところに遭遇すると、中から工事現場のような音が聞こえてくる。その音が大便をひりだそうとして彼が出しているうめき声だということが、最初は信じられなかった。なにせ地獄から響いてくるような音なのだ。それは普段おとなしくしている彼からは想像もできない。祐司さんは溜まりに溜まった大便を抱えているせいか、お腹がぽっこりと出ている。そのことをお母さんも気にしている。本人は気にしているかどうかわからない。ただ、その中身がどうであれ、祐司さんのお腹は柔らかくて気持ちいい。そして、さすってあげると猫のように喜んでくれる。便秘に効果があるかどうかは分からないが、彼のお腹を撫でることは世界の誰も不幸にしないし、とてもいいものだと思う。

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