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舞さんの好み
月に一度、舞さんの買いものに付き合っている。
舞さんは、常に自分を満たしてくれるものを欲しがっていて、身のまわりにあるものを持って帰りたがる。欲しがるものは、石のような硬いかたまりや、ポーチのような自分で中身を詰めてパツパツにできるものだ。
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月に一度、お小遣いを持ってきて、彼女がほしいものを買いに行く。はじめはスーパーに行っていたが、街中に施設が移ってきてからは、100円ショップやおもちゃ屋へ行くようになった。
彼女に値段を聞くとなんでも「ひゃくえん」。100円ショップのときはいいのだが、他の店では、欲しいものが予算内で買えるか確認するのが付き添いの役目だ。
ある月、おもちゃ屋へ買い物へ行くと、サッカーボールが舞さんの目に止まった。ボールの硬さを吟味する舞さん。右手でボールをもって、左手の薬指でボールをはじいて硬さをチェック。同時に、なぜか鼻をつけて臭いも確認。
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数あるサッカーボールの中から赤いボールを選んだ。値段を確認してみると予算オーバー。隣を見ると、ちょっと小さいが同じ赤のサッカーボールが売っていて、そちらは手持ちのお金で買える値段だ。舞さんに、その小さい方を提案してみると「こっちがいい!」と言って大きな方のボールを離さない。
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ボールの硬さを確認してみると、小さい方は、素人(?)でも分かる柔らかさだった。確かに、こんなものでは、舞さんは満足しない。そもそも、サッカーボールにサイズがあることすら初めて知った。店内にあるサイズの説明表を見ると、小さい4号は小学校用で、大きい5号は中学生から一般用と書いてあった。なるほど、小さい方は子供用だから柔らかいのかと納得した。
舞さんは、どうしてもボールが欲しいようだったので、買える値段の他のサッカーボールを一つずつ提案してみた。同じ大きさの5号ボールで安価なものがあったが、素材の違いなのか納得してもらえなかった。小さい4号ボールも、いくつか試してもらうと、FCバルセロナのテカテカ素材のものが良い線までいっていたようだが、お眼鏡にかなわず。
舞さんは、硬いかたまりやパツパツになるものが好きと書いたが、結局のところ、それが本当かどうか分からない。本当は、他にも好みのポイントがある気がする。それこそ臭いもそうかもしれない。他人が見て・感じている世界なんて分からないものだ。
欲しいボールは、お金が足りないので、どうしても買えないことを伝えた。時間はかかったが納得してもらい、来月、必要なお金を用意して、改めてお目当ての赤いボールを買いに来ることになった。この日は、子ども用の長靴を買って帰った。
そして、翌月、他のスタッフと共に、おもちゃ屋へ行った舞さんは、めでたくバスケットボールを手に入れることができたそうだ。サッカーボールじゃないんかいっ!
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