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「福祉を編集する!」をふりかえる座談会

2021年12月3~5日、静岡県浜松市内で、福祉施設のPR・編集・情報発信について学ぶ合宿型実践ワークショップ「福祉を編集する!」が開催されました。

福祉施設従事者や編集者など総勢24名の参加者が3チームに分かれて、各チームで福祉にまつわるオリジナルzine(※少部数の冊子)作成にむけたグループワークを進め、最終日には2022年3月末の発行を目指して、チームごとのアイデアプレゼンを行いました。

主催である認定NPO法人クリエイティブサポートレッツの代表・久保田翠氏とウェブマガジン「EDIT LOCAL」の影山裕樹氏が、講師の小松理虔氏とともに、3日間を振り返ります。

久保田翠(クリエイティブサポートレッツ代表、以下、久保田)

小松理虔(ローカルアクティビスト、以下、小松)

影山裕樹(編集者、以下、影山)        ※敬称略


福祉と編集が広がりをみせた3日間

影山:「福祉を編集する!」を振りかえる座談会ということで、ワークショップから3ヶ月が経ちましたが、お二人の率直な意見をうかがえると嬉しいです。いかがでしたか。

福祉をつたえひらく困難こそが貴重な経験

小松:参加者の皆さん、やはり大変だったんだろうなと。ワークショップに講師として3日間同席して皆さんの議論を見るに、「福祉を編集する!」というタイトルにポジティブなものを感じて参加された方々が、議論すればするほど、福祉というテーマをつたえひらくことの難しさを痛感しながら、のたうちまわって悩んでいた。でも実は、そういうプロセスこそが重要だったのではないかと僕は思っています。

レッツとは異なる視点から福祉の姿を再発見

久保田:福祉って、現場の中で日々過ごしているだけではあまり変化が起きないものなんですね。福祉の現場の外からやってきた受講生の姿をそばで見ていて、実は自分たちにとっても、福祉がものすごく身近なものだったんだと、逆にこちらが気付かせてもらいました。

ワークショップでは「福祉」といいつつ、レッツが日々取組んでいる方向性とはまったく違う視座が持ち込まれていました。浜松に多い外国人労働者の存在を、飲食店に置く箸袋型のマガジンを通じて広く知ってもらおうとする案もそうでしたね。福祉をタネにメディアとして広がっていこうとする様子を見て、「ああ、そういうこともできるんだな」と発見がありました。

小松:もしかすると「編集が内包する福祉」のように、「編集=福祉」といわないまでも、福祉を様々なものと結び付ける――今回でいうと、外国人労働者の問題や「きょうだい」に関する新しいアプローチなど、福祉的課題を排除せずになんとかして誌面のなかに自分のかかわりしろを作っていく試みのなかで、参加者も狭義の福祉から脱却して「こんなふうに福祉って解釈できる、すごく広いものなんだな」と、体感してくれたのかもしれませんね。

参加者はおそらく、狭い福祉を思い描きながらワークショップへ来たはずです。その状態から、編集と福祉の拡張性を味わうことができたのだから、参加者にとっても、レッツのスタッフにとっても、すごくいい「場」になったのではないかと、お二人の話を聞いて再確認しました。

「関係の編集」が新しい出会いにつながれば

影山:僕もこのワークショップが終わってから3ヶ月を振りかえると、あらためて「編集とはなにか?」ということを非常に考えました。今回のワークショップにも福祉施設で働く方々が参加されていましたが、レッツと同じ立場にあたる福祉施設側のニーズとしては、情報発信の方法などのいわゆる「広報・PR寄りの編集」がある印象でした。ですが僕は、編集はけして広報に留まらず、人々を繋ぎ合わせる役割がある気がしています。

これまでならば情報は、マスメディアで大々的に広報すれば大衆に届きましたが、情報源が多様化しつつある現在は、特定のコミュニティへ情報を狙って届けるために、様々なコミュニケーションの回路を作る必要がある。だからワークショップでは「広報的な編集」ではなく、もっと違う「関係の編集」に取り組んでみたかった、というところがすごくありました。コミュニケーションの回路としてのメディアが、異なる人々や異なるセクターの人たちをつなげていくことが、今後さらに重要になると思います。

Bチームならば、「きょうだい」に関する発想の広がり、Cチームならば、外国人コミュニティとレッツ利用者が一緒になった風景、それらがまさに違うユーザー同士をつなげるものとして機能すれば、実際にそういう人たちが出会える機会が増やせるのではないでしょうか。

広報的な編集から、関係性の編集へ

福祉によって広がった編集の感覚

小松:影山さん、今回「福祉」というキーワードで関わったことによって、編集を仕事にする僕たちも、編集の概念が拡張された感覚がありますよね。

影山:ありますね。

小松:編集という概念が、福祉というある種の拡張性ある言葉に触れることで、僕らだけでなく参加者も、個々に持っていた編集のイメージを拡張できたのではないでしょうか。既存の福祉のイメージから飛び出して、さらに広く柔軟に、たとえばまちづくりやローカルの実践のなかで捉えられるようになった。そうすることで、僕自身も福祉の大事なところにアクセスできるようになった感覚があります。結果として「福祉を編集する!」というコンセプトで、非常によかったんだと思います。

ワークショップには編集者、アート関係者、福祉関係者、様々な人が参加していました。各自が悩みながら、各々の専門分野から一歩外にでて、皆で頭を付き合わせながら「人として根源的に大事なことってなんだろう」と一緒に考えた。そこが今回のよかった点で、福祉には異なる分野で活動する人々の考え方を拡張させる性質があると感じました。

広報的な編集が機能しない場所で

影山:もちろん、広報・PRも重要なコミュニケーションの手段だと思います。たとえば『ただ、そこにいる人たち』のように、書籍として小松さんの視点でレッツの滞在記を出すことで、より多くの人に知ってもらえたことも、ひとつの強力なコミュニケーションの方法であることに変わりはないんです。

そしておそらく、僕ら職業編集者はそれしかできないんですよ。記事のタイトルや見出しを惹きのあるものにしたり、デザインを頑張ったり……。だけど、そうした「マスに対する一方的な広報的な編集」の手つきは、レッツのような場所だと、機能不全になってしまって役に立たないのでは、と思う瞬間が僕自身にあったりして。

それは非常に深い命題で、編集者である僕らも、そうではない新しい回路の作り方を見つけていかなくちゃいけないな、とあらためて考えさせられた気がしています。

整理しながら一緒に考えていくことで

小松:たしかに。久保田さん、今回のワークショップ開催の動機のひとつに、これまでと違ったセクションの人たちと関わりを増やしたいということがあったと思うんですが、あらためてレッツがワークショップなどで外部の人たちとつながりを持とうとしているのは、ここ数年の変化なんですか?

久保田:昔から色んな人と接したいとは思っていました。そのなかでもとくに、いわゆる「普通の人」と接する機会が意外となくて。レッツの企画には「障害」や「アート」というテーマが含まれるからか、参加者にはやっぱり尖がった人や面白い人が圧倒的に多くて、「普通の人」との出会いがますます遠ざかっていくという(笑)。

それに、皆にわかりやすく、万人にウケるプログラムを組むことが苦手なんです。最近は時代が変わってきて、以前よりもレッツの発信に耳を傾け始めてくれる人が増えましたが、やはりそれでもレッツは編集するのが得意ではないと感じています。

影山さんや小松さんが手掛けるように整理していくことができないんです。何が必要で、何をそぎ落としていいのかわからない。全てを見せたくなっちゃうもんだから、ますますわかりにくくなっていく。それがアート的にはすごく面白いんだけど、一般的には理解されにくい要因になってしまう。

小松:久保田さんと同じような地域の担い手の方々も、自分の情報を整理して発信するなんてことはおそらく不得意なはずです。現在の編集者像は、影山さんが言ったように「会社としてのブランドイメージを拡散したり、さらにある種の資本主義的なルートに乗って社会に出すもの」だと思われているかもしれませんが、もともと散らかっているものをちゃんと交通整理して関連づけることを、現場の人と一緒にその場で考えていく。そこがまさに、編集者の役割なんだと思います。

そういう意味でも今回のワークショップはリモートでは成立しなかったと思います。レッツを自分の目で見て、皆で考えて、現場の力に触れて……そうして入っていくことで初めて、整理や関連付けが、つまり編集ができるようになる。今回のワークショップで参加者の様子を見ながら、編集者の役割とは何か、より一層考えました。

ビジネスをも内包して福祉は広がりつづける

福祉が持つ価値を考え直す場へ

久保田:これまでは、活動をなんらかの成果や収益へ結びつける価値観に対して疑問を抱いていましたが、ここ最近はお付き合いする人たちから影響を受けつつ「福祉は社会貢献にもなるし、金にもなる」という軸が持てるのではないかと思うようになってきました。

だから今回のワークショップのように、成果を求めるストイックな雰囲気は私たちには馴染みがなかったですが、ビジネスコンクールなどに見られるようなひとつのフォーマットに手を加えて福祉版にすることで、「福祉を活用した何かをしてみたい」と思う人材が集まるようになるのでは、と考えています。

レッツで開催している「タイムトラベル100時間ツアー」という観光企画は、参加者からお金を落としてもらうことを目的としていません。現在の社会ではまだまだ稀有な場所であるレッツに来ることで、新しく得られるものが沢山あるはず、という動機で行っています。私たちには収益化のノウハウがないから、今はここまでだけど、もしかしてこの体験は、誰かのアイデアを足すことで、お金にも替えることができるかもしれない。今回のワークショップを改良して、そのための解決策を皆で議論してみることで、また新しい展開が生まれるかもしれない。そこまで「福祉を編集する!」を育てられれば、面白いなと思います。

そうしたイベントに参加するような積極的な提案を持つ人たちと、福祉の現場の人たちがコンタクトをとると思わぬ効果が生まれて、「福祉の新しい使い方」が見えてくるのではないでしょうか。実際、ワークショップ参加者のなかには、レッツでアルバイトを始めた大学生や、レッツが運営するシェアハウスの入居者から、レッツを支えるヘルパーとして働き始めた人もいますから。

異分野との出会いが福祉の編集力を引き出す

影山:今回のように編集者が入ることで、そこにハレーションはありつつも、レッツとは違った角度のアイデアが出てきましたよね。

久保田:異なる分野の人との出会いは大切ですね。福祉は携わる人に同族性があるから変化が少なくて、福祉だけだと展開が面白くならない。なおかつ一般的な福祉施設の場合は、職員がキャリアを積み上げていく必要があって余裕がないからなおのこと、そこから発想が生まれない。だから、そこを接続するような事業が立ち上がっていけば、広がりも収益性も見込めるのではないでしょうか。

小松:まったく関係ない人同士を橋渡しすることも編集の重要な仕事であると、ものすごく感じますね。逆にいうと、福祉の懐の深さとも言い換えられる。福祉を掲げるとその場が、様々な人たちが関われる入れ物になるということだと思うんです。福祉が持つ編集力、別々のものを結び付けてしまう力が働いていると思います。

福祉に日頃関わっている人も、そうした大きな意味での福祉を、日々の支援のなかで往々にして忘れてしまいがちだから、福祉の内側の人も考え直すことができたワークショップだったのかもしれません。

影山:ワークショップ終了後、福祉関係者の参加者からは「広報誌をきちんと戦略立てて作ったこともなかったからすごい新鮮だった」という意見が、編集畑の参加者からは「レッツに滞在して様々なことを感じ考えた」という意見が上がっていました。普段出会うことの少ない人たちが互いに接する機会となったのは、よかったですね。

事業やプロジェクトのなかで福祉を解き放つ

久保田:外部の人とつながると発想が新しくなりますね、私はとても楽になりました。次回はもう少しプログラムを練って、実施期間が長い有料版でもいいと思います。「福祉を編集する!」の間口を広げて、ITや不動産などの関係者も巻き込みながら一緒に事業立上を本格的に目指すというプログラムも、いいかもしれない。

小松:どんなフィールドにも持っていけるんですよね、福祉って。参加者がレッツで過ごす時間もポイントになると思いました。今回のワークショップのように短時間で作り上げることも重要ですが、それだとどこか経済的な合理性や効率がどうしても優先されてしまう印象があります。題材となるレッツという場所は「かたちのないもの」を創りだそうとしているのに、参加者は短時間で何かを生み出すことが求められる。そうしたジレンマを抱えて多くの参加者が悩んでいたのではないでしょうか。

なので、いっけん非効率に見えるけど、レッツという場を通じて、長期間一緒に事業化も絡めて考えていくことが、結果として教育機関的な役割を帯びたり、学習プログラムへ繋がっていくと思います。

事業というよりもプロジェクト化に近い感覚ですね。たとえば、1年間に渡ってレッツに関わりつづけて、自分のある種の当事者性や自分の持っているスキルを通じてプロジェクト化していく。その人が編集者なら冊子や本を作ればいいし、それはイベント企画でも、商品でも、サービスでも、アプリでもいい。レッツで時間を過ごし、レッツのメンバーと一緒に散歩したり、スタッフと会話したり、3階のシェアハウスで一緒に何かを企画してみたり。越境して関わるなかで感じたこと考えたこと、つまり「我がこと」化されたプロジェクトを創り出していく。そうしたロングスパンの「福祉を編集する!」ができたら。そして、そういう意味では同じような方法で『ただ、そこにいる人たち』を刊行した僕が一期生にあたりますね。

久保田:皆で収益化のためのアイデアを議論して協力しながら実行に移していくことで、社会が良くなりながらも、きちんとカネにもなる。それが本当の福祉なんだと思います。

今回のワークショップを終えてあらためて、そのためには私たちのような、アートや福祉に携わる人たちだけじゃなく、様々な領域の人たち、たとえば利益を追求するビジネスの領域で活動する人々にも、理念を共有して対話することで可能性が広がっていくのではないか、と非常に考えました。

「福祉を編集する」って、最初は意味がわからなかったけど、あとから考えたら、もしかしてそういうことを目指そうとしていたのかなという気もして。なかなか秀逸なプログラムだと思います。

(文・遠藤ジョバンニ、協力・佐原瑞葉)

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