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ある日の光景−−「福祉を編集する!」コラム③

クリエイティブサポートレッツ×EDIT LOCAL「福祉を編集する!」参加者によるコラム。箸袋に見立てたzineを作成することになったCチームから松本由紀さんに執筆いただきました。


私には忘れられない光景がある。私の勤めている浜松国際交流協会では年に1度の国際フェアを開催して、いろんな文化紹介や料理の屋台、雑貨のお店が出店し、ダンスを披露する。ある時そこに散歩をしていたレッツの人たちがふらりと立ち寄った。多国籍の人に混ざりレッツの人たちもごくごく自然に溶け込んでいた。周りも特に気にすることなく、一緒に踊り、食べ、楽しんでいた。これが当たり前の日常になったらどんなに素敵だろう。多様性とかダイバーシティとか世の中で何度も目にする言葉だけど、この光景をどれだけの人が目にしているのだろうか。

浜松市は全国でも有数の外国人の多い都市である。2022年現在、89か国2万人を超える外国人が暮らしている。浜松国際交流協会の事業の一つに「地域共生」がある。外国人が地域で暮らしていく際の様々な問題を、ある時は地域住民側から、ある時は外国人側から相談を受けている。

楽しむことが上手な人達

ワークショップ初日、テーマについての話し合いの中で出た話題に「福祉業界の人材不足」があった。それを聞き、国際交流団体に勤める身としてぼんやり心の中で外国人が働けるといいのになと思った。コロナ禍で仕事を失っているという相談が多いからだ。いやいやそれでは国の都合のいい政策に乗っかっちゃうことになるからダメか。とはいうものの、レッツの人たちを見ていると外国人との組み合わせって意外といいのではと思うことがある。

皆がそうとは言わないけれど、国によっては細かいことを気にする日本人に比べてのんびりしている人が多い。講座の運営の際、失敗のないように細かくタイムテーブルを練り上げた台本に対して、ハプニングがあるから面白いのになどと笑うし、雨が降ったから行かないとか、職場のフィリピン人の相談員も「コロナでどこも行けなくてやることないから家で踊ってますー!」と、とにかく楽しむことがうまい。

そんな彼らがレッツに行ったら面白い化学反応が起きそうなのになぁと心の中で思っていた。しかしそこをつなぐなんてそう簡単にできるわけはないと識者に怒られるのが目に見えている。理想と現実は違うのだ。

私たちは知らず知らずのうちに色眼鏡をつけている。「なんか怖い」「ちゃんとできるの?」「コミュニケーションがとりにくそう」などなど、自分とは異なると思う人たちを「障害者」「外国人」といった属性にひとくくりにしてしまい、それが差別や偏見につながっているのではないだろうか。いやいや、接していくととても面白く、楽しいことがいっぱいあるのに。そう、みんな知らないのだ。知らないからわからない。知らないから怖い。その属性というラベルをはがし、奥にあるヒトを知ってもらうにはどうしたらよいだろうか。

はじめの一歩

私たちが選んだのは「食」だった。私たちが作るメディアは、浜松市内にある多国籍料理店や福祉団体の運営する店舗を紹介するマップを作成し、箸袋という形で飲食店に配布するというものである。多文化共生のまち浜松で、「食を通じて、障害の有無や国籍に関わらず、ヒトとヒトが出会う橋渡しを」がテーマである。

市内には外国人の料理店が多数あり、また、福祉関係者の経営するお店も多数ある。いきなり施設に行くことはできないけれど、そのお店に行ってみることはできる。お店に行くことでその存在を知ってもらうことができる。その人たちがどういう思いでこのお店をやっているかを知ってもらう。メンバーの中で、候補に挙げたベトナム料理店を知っている人がいた。いつも気になってよく前を通るが今一つ店に入る勇気がないということだった。

実は私も夫の実家のそばにある福祉関係者のやっているカレー屋が、いつも気になってはいるものの入ることができず、はや20年が経過しているのであった。まず一歩なのだ。店に入るその一歩の先に多文化共生がある。その一歩を踏み出させる仕掛けを、箸袋という形のメディアにしたのだった。

余談だが、レッツの理事長の久保田翠さんと私とはママ友である。同じマンションに住み娘同士が仲良く、出会った頃タケシくんはまだおなかの中だった。誕生後「ちょっと大変かもしれない」と聞き心配しかできなかった私を前に翠さんは「これはおかしい。絶対おかしいと思う」と様々な問題に立ち向かい、団体を立ち上げていった。

私も娘と一緒に最初のころは手伝ったり参加させてもらったりしていたが、忙しくなりだんだんと参加する機会を失っていった。会う機会はなくなっていたが、活躍は目にしていた。翠さんの意図はなくても新聞やテレビ、雑誌を通じ、その活躍は確実に私に届いていた。

届けてくれたのはやはりメディアであった。それは時に私を励まし節目節目に力づけてくれた。私も私なりに紆余曲折しながらやってみたいと思っていた場所にたどり着きそこで仕事をしている。そして20年近い時を経て、再び出会い、今回また一緒になにかができることにワクワクしている。

異なるコミュニティに出会うこと

とここまで書くといかにも順調にことが進んだように見えるが、プロジェクトは本当に大変なものであった。ワークショップ初日、地域も職種も違う全く初めて顔を合わせた私たちに、まずはFacebookでグループをつくり、役割を決めてください、はい30分で!というバラエティー番組の罰ゲームかと思わされるスピード感あふれるお題が出され、あたふたするもさすが自然とリーダーシップをとってくれる方々のおかげてクリアできた。

他のグループと比べ比較的年齢層の高いメンバーは知識も経験もある常識人で、それゆえに互いを尊重し合い遠慮がちな部分もあった。と同時に思いも強く、その中で何を選択していくか、何を伝えるべきなのか、そぎ落としていく難しさも感じていた。しかしひとたびテーマが決まるとそれぞれの特性を生かし、ものすごいスピード感で進んでいった。まるでアベンジャーズか!と突っ込みたくなるほどだった。

福祉の世界を知らない私にとっては初めて知ることも多く、また違う視点からの意見が大いに刺激となった。今回のワークショップにおいて、住んでいる地域も業種も違う異なるコミュニティを持つ人たちが混ざり合うことで、知らなかった世界がどんどん広がっていくという、私たちがテーマにしたことを、実は身をもって体感していたのだと思う。

異なるコミュニティをつなぐことは容易ではない。識者や専門分野の人から失笑を買うかもしれない。しかし、識者も初めから識者であったわけではない。その道に進むきっかけが必ずあったはずである。そのきっかけづくりにこのメディアが役立ってくれることを願っている。


松本由紀(まつもと ゆき)

PCインストラクター、貿易会社を経て国際交流団体に勤務。広報担当。学校嫌いの3人娘に翻弄されながらも無事子育てを終え、もろもろ学び直し中。国内外のローカルな料理店をめぐるのが趣味。南の島に住むのが夢。

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