© 表現未満、webマガジン All rights reserved.

木村劇団のこと

気が付けば2023年でした。
浜松に来てもうすぐ1年になります。スタッフ塚本です。

レッツは1月からイベント尽くし、アクセル全開で稼働しています。
詳細は別途、ホームページやFacebookをチェックしてくれよな!!

木村さんの話をしたいのです。
彼女は就労Bのサービスを使って、アルス・ノヴァに来ています。

わたしがレッツに来る前から、木村さんはスタッフやメンバーと一緒に「木村劇団」という名目で、お芝居をしていました。彼女は、木村劇団の座長であると同時に、作・演出・出演(主役)をも、全てこなします。

ひとり芝居をやってきたわたしは、そんな彼女のことを紛れもない同業者だと思っていて、その制作スタイルにも親近感とリスペクトを抱いています。木村さんや、看板俳優のスタッフ曽布川さんに声をかけてもらい、今ではわたしも、木村劇団のいちメンバーとして舞台に出たり出なかったりしています。

わたしはとても遅筆で、1時間の戯曲(お芝居の脚本)を書くのに3か月くらいかかるのですが、木村さんは恐ろしく速筆です。3日に1ぺんくらいの頻度でアルス・ノヴァにやって来る、その度に「新作できたよ~」と言ってスマホのテキストを見せてくれます。長さもジャンルも様々でバラエティに富んでいます。

共通しているのは、ヒロインが木村さんであり、相手役は決まってスタッフ曽布川さんであり、彼らはいつも悲劇に見舞われる、ということ。それはもう、徹底して一貫しています。たぶん、意識していなくても、彼女の書くものは自然とそうなる。そういう構図の世界や役割を生きることが、彼女の欲望に他ならなくて、それ以外のことには興味がないから、特に違うものを書く必要もないのだろう、とわたしは考えています。

木村さんの書くホンや、木村劇団の作品づくりの過程は、わたしがこれまで学んできた「お芝居のつくりかた」の概念を、ぶっ壊してくれるのです。それが面白いから、彼女たちと一緒にものづくりをしています。

戯曲を書くとき、たとえば設定したいシチュエーションがあって、そこに流れを持っていくのに劇作家は苦労します。AとBとCという人物が会話をしているが、途中でBとCを二人きりにしたい、というとき。Aをトイレに行かせたり、宅配便が来てAに取りにいかせたり、より自然な方法を模索し、それを書くわけですが、木村さんの場合、何も書きません。いつの間にかBとCだけになっていて、いざ稽古するときに「いまこれ、Aはどうなっているの?」と役者が聞きます。木村さんは「わかんない♡」と首をひねるか、「いなくなってる」とだけ断言します。なので、メンバーたちがその場で「こういう台詞を足そう」「この流れで袖に消えとこう」とアイディアを出し合います。

木村さんは、とにかく書きたい言葉、描きたいシーンだけ書くから、そこへ至る流れはもうびっくりするぐらい簡単で都合が良いのです。言ってしまえば、不自然です。でも、その不自然さは書こうと思って書ける類のものではない。それは、木村さんにしか書けないものなのです。

例えば、昨年10月に上演した木村版『シンデレラ』。幼少期の王子とシンデレラが出逢う、という木村さんオリジナルのシーンに、こんな台詞が登場します。

王子「君は優しいね。心が美しく綺麗に感じるよ僕実はこの国の王子なんだよ。でもお城を出てきたんだよ。自由がなくて辛いんだ。ごはん三日まともに食べていないから助かったよありがとう。いつか必ずこのお礼を。また会えるかな。」

台詞の直前には、シンデレラから食べ物の施しを受ける男の子、というやり取りだけが行われています。なので、このたった3行の台詞に、①シンデレラの優しさ②彼が王子であること③王子である苦しみ④王子は既にシンデレラに惹かれている⑤大人になった二人が再会する予感 という情報が詰め込まれているわけです。普通の会話を想定したらとても不自然です。いくら子供でも、初対面のひとにこんなにべらべら、分かりやすく話すものではないと思います。でも木村作品ではこれがナチュラルなのです。こうなってくると、木村さん自身がシンデレラであることが、面白く作用してきます。木村さんは、いかにシンデレラ(=木村さん自身)が魅力的で、王子に慕われているか、ということを表すことだけに注力している。それも、ほとんど無意識に。

演技や演出についても同様です。『シンデレラ』では、わたしはいじわるな姉を演じましたが、木村さんから「もっといじめて!!」という旨の演出指導を受け続けました。水をぶっかけたり髪の毛を切ったり突き飛ばしたり……。稽古のたびに、苛めるシーンが追加されていきました。彼女は、ひどい目に遭えば遭うほど、シンデレラ(=木村さん自身)が輝く、ということが分かっているのです。これもやっぱり、意図的な指示ではなく、彼女の欲望から無意識に生まれる演技プランだと思います。(その証拠に、シンデレラが絡まないシーンの演出指示はほぼ皆無でした)

いわゆる学校のような教育機関で演劇を学ぶと、演技したり、演出したり、戯曲を書く上では「意識的に自然にする」ということが基礎中の基礎、みたいに教わります。コップに水を注ぐ、という動作のように、何気なく行えるようなことでも、第三者に見られながらやると変に強張ったりしてしまう。それを舞台空間でいかに自然に見せるか、というところがテクニックというわけなんですけれども、木村さんは、木村さんの自然体が「無意識で不自然」だから、わたしが学んできたことの真逆をやっている。しかし、誰にも真似できない、木村さんにしか表せない面白さがそこにある。だから彼女はそのままがよいのです。

《☆彡告知☆彡》
さて、そんな木村劇団、新作公演のお知らせです!
3月4日(土) 14:30~
静岡は沼津にて、木村劇団が初の出張公演をします。
演目は木村版『ロミオとジュリエット』。

果たして今回、木村さんとスタッフ曽布川はどんな目に遭うのか!
そもそも、沼津まで無事に行けるのか!!
舞台の幕は上がるのか!!
バラバラな方向を向いてる共演者たちが醸し出す、
座長木村の生々しいファンタジィワールド。
乞うご期待!!!

木村劇団 出張公演『ロミオとジュリエット』in 沼津
【日時】令和5年3月4日(土) 14:30~ ※開場14:00~
【会場】 丸天ビル 3F(静岡県沼津市大手町5-4-1)
【入場料】 500円(+投げ銭)
【ご予約】下記URLよりご予約ください。https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSey6uO_Zpxto4eGJ2KtKyVTCjHu1yAVf1k-6o3UL9aNjoIKxA/viewform?usp=pp_url
【お問い合わせ】 lets-arsnova@nifty.com
【その他】
★会場にはエレベーター、お手洗いがあります。
★多目的トイレはございません。
★駐車場はございません。お車でお越しの際は、近隣のコインパーキングをご利用ください。

みなさまのご来場、お待ちしています!

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

てぃーちゃんの輪

アルス・ノヴァ屈指の職人、てぃーちゃん。彼女の最近の日課は、チラシなどの雑紙を短冊に切って、テープで留めて輪っかにするという、「輪っかづく…

瑛の、物語りにならない、わたし語りラジオ#1-#4

誰かに伝えるための言葉でもなく、かといって日記のように、自分のためだけの言葉でもない。そんな「わたし語りラジオ」を始めました。こんな時期だからこそ、暇な時間に聞いていただけたら幸いです。もちろん、聴かなくてもいいよ。

ページ上部へ戻る