《寄稿》松尾亜紀子さん [ひとインれじでんす2024] - 特定非営利法人 クリエイティブサポートレッツ
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サポートレッツ
《寄稿》松尾亜紀子さん [ひとインれじでんす2024]

《寄稿》松尾亜紀子さん [ひとインれじでんす2024]

言葉に捕まらないために、
場所で生まれた言葉を紡ぐ

 

文=松尾亜紀子

 

クリエイティブサポートレッツの松宮俊文さんから、「ひといんレジデンス」に来てみませんかとの依頼をいただいたのは、2024年6月のこと。私はふだんフェミニスト出版社として本や雑誌を刊行したり、フェミニストのための本屋を経営したりしている。その頃私は、よっぽど無理でない限り、自分あての講演や執筆依頼は受けると決めていた。謝礼の数万円でも本の制作費の足しにしたいのっぴきならない資金繰り的理由もあるが、自分たちの場所を脇目も振らずつくってきた6年目、立ち止まらず続けるためにも、ここらで一旦、他の人たちの活動を近くで見てみたい気持ちが強かった。レッツの依頼を断る理由がなかった。

 とはいえ、日頃から講演依頼を受けることが多い男女参画センターや学校などと様子が違い、松宮さんやスタッフの蕗子さんとのオンライン事前打ち合わせを経てもなお、重度の知的障害のある人たちが利用するレッツがどういう場所で、自分がそこで何をすればいいのかイメージが湧かない(おふたりの説明は、とても丁寧でした)。自分の話がみなさんの「役に立つ」ともハナから思えないし、まあともかく行ってみようと迎えたレジデンス初日の12月6日、アルス・ノヴァでひと通り案内をしてもらったのち、「自由に過ごしてください」と言われるとは!

 2日目のトーク@ちまた公民館でも報告した通り、それで私は、何をしたかというと、爆音がどんどん響く2階、片隅のソファで少し、いや小1時間くらい熟睡させてもらった。チラシを千切った山のなかすやすや寝ているたけしさんや、音楽に乗って踊る利用者がいて、1階を含めて整頓と騒がしいカオスが同居する居心地のよさがあり、えい、もう知らん、睡眠不足だし寝ちゃえ! と思ったのだ。エトセトラブックスの書店も「居心地がいい」と言ってもらえることがある。選んだ本を並べて、好きな音楽をかけ、お客さんには基本的に干渉しないが、お尋ねあれば知っている限りお伝えするし、会話も楽しい。言うはやすし行うは超むずかしい「自由にお過ごしください」を、私も、少し体現できていたのかも。

 その後、松宮さんに優しく揺り起こされ、利用者さん達の散歩や買い物に同行した。一緒に散歩したまーくんはすごく重いリュックを背負っており、店頭に置かれた無料のパンフレット類をもらい歩くのが好き。商業施設で本屋や「デパ地下」を巡り、駅前広場で自販のコーヒーなど飲んで休憩。その広場にはホームレスの方たちが住むことがあり、地元の方たち主催で、弊社刊の女性ホームレスの手記をまとめた『小山さんノート』の読書会が開かれたという。確かに雨風をしのげそうな造りだ。本屋が、駅前広場が、社会が、社会で生きるあらゆる人に開かれる場所であって欲しいと、楽しさのなかにも、しばらくそれだけを考えた。

 夕方からのスタッフの皆さんとのトークは、自分の脇汗がたらたら流れる感覚がいまだフラッシュバックする。さっきの居心地のよさと同じ強度で、アウェイとはこのことかと実感した。こんな場所をつくっている人たちの前で、自分の活動を説明する緊張。自己紹介せねばと「フェミニズム」が「ジェンダー」が、と聴かされて眠たかったですよね、私もみなさんの話しか覚えていないです。代表の久保田翠さんの、存在が周縁に追いやられがちな重度障害者たちの場所を街なかに建て、社会(外部)をここに連れてくることで障害者たちの存在を社会に開いていく、というお話に、自分がここにいる前提がようやく少し掴める。たけし文化センターは施錠されていて、利用者は自由に外には出られないのに閉塞感がなかった理由もわかった気がする。その後も滞在中、久保田さんから「言葉」を信じてないと数回聴いた。が、自分たちの活動をこんなにも丁寧に緻密に言葉にしている方たちがいるだろうか。アート、表現、福祉、社会運動……そんな定まった言葉に捕まらないために、言葉を紡ぐ活動がなされているような。

 その後の打ち上げでは、皆でしゃべってマッコリの甕を瞬く間にどんどん空にして、スタッフの方たちが大好きになる。トークもマッコリを飲みながらやれたらよかった(すみません)。

 その晩は、重度知的障害のある人たちの暮らすシェアハウスに宿泊。生活の場にいきなり他人が泊まると、生活者にストレスじゃないのか? と逡巡するも、久保田さんのお話が頭にリフレイン。ケアワーカーのおひとりが並の声のよさでなく、訊いてみると元は劇団関係の仕事をしていて、現在ここで働いている。劇団にいるより面白いですからねと。なにかまた掴めそうな気になるも、そこで暮らすまいさんの大きな声を聴きながら、また爆睡。

 翌日の一般の方が来てくれるトーク場所、ちまた公民館も路面で街に開かれた良い所だった。前日まーくんと遊びすぎてトーク用のパワポは途中までしか出来てなかったが、レッツでのわずかな滞在を経て、自分たちがフェミニズムを開くために出版社をやり書店をしていると言葉にしてみると決めていた。言葉でフェミニズムを伝える仕事をしながら、これまで自分はとにかく実践あるのみで、それじゃもう足りないからレッツに来たんだろう。活動がそうであるように、言葉もまた過程なんだと改めて知った2日だった。ちまた公民館に来てくれた、浜松周辺の方もありがとうございました。私もまた、こちらで場所を続けていきます。